あめふらし

雨男ってよく言われます。音楽、映画、雑感とか

集中講義 組織行動論特別講義

眠れないので集中講義のリフレクションを兼ねてブログを書きます。

 

先々週の日曜と先週末に青学で行われた東大の中原淳先生の集中講義「組織行動論特別講義」を受講してきました。昨年受講していた先輩方から「準備が大変だよ〜」とは教えていただいていたのですが、予想以上の大変さでした。英論文を要約してプレゼンするといった内容の課題だったのですが、英語に慣れていない+20枚以内のスライドにまとめるという制約が加わり、本当にしんどかったです。

でもきっと東大生はこれを普通にこなしてしまうんでしょうね。研究者を目指す以上、これを普通にせねばと実感し、今後も英論文を定期的に読んでいく読書会を企画しようと同期と奮起しました。

 

さて内容なのですが、あまり詳しく書くと何か問題があった時に厄介なので、私が気になった部分だけにフォーカスして書きたいと思います。大きなテーマとしては「海外勤務者の組織学習を考える」だったように思います。

 

まず組織学習の基礎となる「社会化」「経験学習」の理論的背景や実践的研究を知ることができたのが非常に大きな収穫でした。いかに人間が組織の一員になっていくのか、また組織内においていかに学んでいくのかといった話は、わかっているつもりでいたのですが上手く説明できないことに気が付きました。今回の集中講義では組織(会社)の中の話が中心でしたが、例えば大学のゼミであるとか部活の研究にこうした社会化や経験学習の話を適応してもおもしろいのかも知れません。

 

さらに私自身、発達心理学(青年心理学)をベースに研究しているので、大学と社会との繋がりの議論はとても勉強になりました(そういえば自分がどんな人間かまだブログに書いていない、、、)。本田由紀先生が指摘する「ハイパー・メリトクラシー社会」の現代において、大学は研究機関としての機能だけではなく社会で使える人材(語弊があるかも?)を育成する機能も有する。社会化の文脈で言えば予期的社会化おいて大学は非常に大きな役割を有する。PBLや学生参加型授業などで大学での学びが変容しつつある昨今ですが、そういった学びの変化とハイパー・メリトクラシーとの関連は、これまたわかっているつもりでわかっていないことに気が付きました。今後ちゃんと整理しなければ。

 

あとは社会人と研究者の思考法の違いはとっても勉強になったように思います。授業において「海外勤務に適した人材を選抜する方法を考えよ」といった問いが出されたのですが、私は単純に(というかそれしか思いつかなかった)アンケートを取るやインタビューを行うといった方法を提案しました。しかし社会人の方は「欲しいのは「今誰を選ぶか」の基準なのだから、そういった方法をとっている時間は無い」とおっしゃいます。確かにアンケートやインタビューといった方法を取ると、ものにもよりますがある程度の時間がかかってしまうでしょう。そうではなくて今あるデータを最大限駆使して、新たにデータを取るといった作業はなるべく少なくするのが実務の内実にかなっているのかも知れません。当たり前のことなのかも知れませんが、新鮮さと少しの違和感を持ったので、メモ程度に書いておきます(違和感の詳細はまた今度書ければと思います)。

 

ではまた。

社会文化文献読書会

3日前に4月から定期的に行なっている社会文化アプローチの諸文献を読み込むといった趣旨の読書会を行いました(終わってすぐ書きたかったのですが、集中講義の影響で書けず。集中講義は集中講義でおもしろかったから良いのだけど)。今回の本は桑野隆著の「バフチン―“対話”そして“解放の笑い”」。

バフチン―“対話”そして“解放の笑い” 新版

バフチン―“対話”そして“解放の笑い” 新版

今回は第5章で私がレジュメ担当でした(あとでここにもレジュメファイルを載せたいと思います)。さて内容なのですが、戦後のバフチン研究の軌跡を追いつつ、バフチンの「対話的能動性」における議論を紹介するといったものでした。以下は桑野隆さんの本を読んだ僕の私的な感想です。疑問に思われたりもっと知りたいと思われた方はぜひ桑野隆さんの本またはバフチンの原典をあたってみてください。

 

バフチンは異質な他者と対話が人間を個別の存在にならしめると説きます。こういった他者との関わりから自己が生まれる系の話は、例えばクーリーやミードのシンボリック相互作用論などによっても支持されていますし、また日常的な文脈においても非常に納得出来るものでした(人の優れているところを見て、自らの劣等性を認知することは僕自身よくあります。またバフチンはこういった現象を「視覚の余剰」という概念を用いて説明しています)。

しかしです。なぜ我々は他者と対話することによって個別な存在になれるということを知っているのでしょうか。誰に教えてもらうでもなく、我々はこの自明な事実を知っています(”そもそもなぜ対話が必要だと知っているのか”という問題)。現実問題、確かに我々は他者からフィードバックを受け、自己のさまざまな側面を認知していると言えるでしょう。これは我々の経験からもわかる自明の事実です。ただ、このような”自己によって他者は必要不可欠理論”の多くが「他者とコミュニケーションを取ること」を人間の生得的な機能や社会的規範としてアプリオリに設定しているのではないでしょうか? このことをことさら批判するつもりは私にはありません。進化心理学的知見から考えても人間はコミュニケーション能力が長けていたから生物的に生き残ったと考えることができる(つまり人間は種として社会的な存在であるということ)と思いますし、ワロンやヴィゴツキーの理論においてもコミュニケーション能力はアプリオリに設定されているように思います。また本論においては参与的思考者(マルクス主義者)における人間の社会的実践への参加(つまり歴史への参加)といった概念が紹介されていました。これもまあコミュニケーションをとることが社会的規範になっている理論と考えてよいでしょう。

 

バフチンの”自己によって他者は必要不可欠理論”における「じゃあそもそもなぜ対話が必要だと知っているのか」問題への解答は独特なものでした(少なくとも私はそう思いました)。バフチンも人間が社会的存在であることは認めているようです。しかし、ここから先をバフチンは細かく見ていきます。まず人間各個人は世界において唯一の存在である(つまり誰も同じ人間はいない)と説きます。つまり人間は誰とも同じでない独特で唯一の特徴を有しているということです。しかし人間は自らの独特さに1人では気がつくことができない(自分の顔は自分でみることができない。「人間は未完の存在である」)。だからこそ人間個人は自らの独特さに気付くため、また他者の独特さに気づかせるためにコミュニケーションをとる責任が生じる。つまりバフチンは「じゃあそもそもなぜ対話が必要だと知っているのか問題」について”社会的存在である人間は自己の責任として他者と対話しなくてはならないからだ”と解答しているのです(この「他者と対話しなくてはならない」といった概念をバフチンは「対話的能動性」と呼んでいます。)。

 

対話的能動性に対して批判もあるようです。「他者との相互行為を通して自己を見つけるのはわかるが、楽天的・理想的過ぎる」といった批判です。確かにコミュニケーションを通して自分が見つけられるというのはどこぞの自己啓発でもやっていそうな内容ですし、それだけでアイデンティティを確立出来るというのは理想的過ぎる気もします。

しかし、バフチンはこの対話の失敗についても指摘しているようです。対話が失敗した時、由々しき事態になることがあり、相手を傷つける可能性もある。これは日常的によくあることだと思います。「君はこんな人間だね。そうだねわかるよ」などと安易に断定し、その人の持っている本来の独特さを消してしまうといった経験(私は中学時代の先生に対してこの安易な断定を感じたことがあります)は往々にしてよくあることだと思います。

 

こんな感じの内容が第5章の内容でした。その後のディスカッションで様々な議論がなされました(研究者としてのスタンスに関わる議論など)。この内容はバフチンと関係しているようでちょっとずれるので、また機会を改めて書きたいと思います。

 

それではまた。

 

【メモ】

※自分でメモしといて何の為のメモだか忘れたものです。誰かわかったら教えて下さい。笑

参与的思考者

赤ちゃん

要するに対話的相互行為

ここで問題になるのが主体性の問題であります。

文献メモ

最近読んでいる文献の要約(というかメモ)。

海外赴任者の適応とパーソナリティの関連の検討みたい。

結果は意外と面白かった。

 

-以下メモ-

 

Paula M. Caligiuri 2000 selecting expatriates for personality characteristisc : A moderating effect of personality on the relationship between host national contact and cross-cultural adjustment, management international review, 40, 61-67.

要約
国外赴任者の個人的特性(開放性・社会性)がホスト国の人々と接触と文化的適応の関係に及ぼす影響を検討した。仮説は「開放性と社交性は比較文化的適応とホスト国との接触の関係に緩やかに関連している」であった。対象はアメリカを拠点とした情報テクノロジー会社。
結果としてホスト国との接触と文化適応は、被験者が開放性の特性を有しているときに正の相関を示していた。また社交性は文化適応と関連していた。

導入
国外移住者の定義:多国籍企業(MNCs)がリクルートし育てた社員で、MNCsが2〜数年間の間、親会社から海外に送る人材。
海外赴任者は年々増えており、今後も増えていくだろう。

国際的な人材育成の失敗は大きな損失をもたらす(特にホスト国との関係に対してネガティブな影響を持つ)。
→だからこそ、人材育成実践者(人事)やマネジメント研究者は「いかに個人が他国の文化的状況で成功的に仕事を行い生きていくベストな道」を予測することに関心を持っている。
過去の研究は「いかに海外勤務者が仕事を成功的にこなすか」といった評価に用いる基準のタイプを相当する検討してきた。
→3つの基準1.文化的適応、2.国際業務の完遂(成功)、3.国際業務のパフォーマンス。
→2、3の前提条件としての1。よって1をもっと深く検討する必要が有るだろう。よって、海外移住者が快適に感じ、ホスト国の仕事や生活に適応できる影響範囲を検討する。

文化的適応
文化的適応は自国外において心理的に快適に過ごせるかに関連している。成功者は他国の文化を受け入れ積極的に行動する。失敗者は逆にホスト国を下に見て自国の文化にくっついて離れない。
→ごく手短に言うと、文化的適応は新しい環境へ個人が情動的心理的に反応することである。
→それゆえ、文化的適応は内的・心理的・感情的状態であり、またそれらは新たな文化への個人的経験といった視点から測定されるべきである。

文化適応を最大化させるためにも、文化適応に影響を与える要因を検討することは重要。
→しかし学術的な注目をされているけれども多くの研究が素の事例研究で、いくつか実証的理論的に現象を詳細に調査した研究があるくらい。
適応の要因リストに多くの要因が追加されているが、理論的な発展が初期から進んでいない。

ホスト国との接触と文化的適応
2つの重要な理論
社会的学習理論(バンデューラ)
社会化・意味制作を通した文化適応プロセスの理解(ブラック)
→この2つは「社会的相互作用(特にホスト国との相互作用)」で繋がっている

事前学習がいかに有効か、社会的学習理論を基礎として検討した(blackら,1990)
事前学習は個人にその国の知識と、その国で過ごすためのスキルを学ばせる。
→誤まった理解や不適切な行動をしない事による効果的な文化間相互行為の促進のためのスキルや知識
→でも実際のところ事前学習はほとんどなされない
→だから実際に現地に行ってからの学習になる
→”海外赴任者の「文化的泳ぎ方」は非常に深いところまで来た時に初めて始まる”

社会化の話
海外渡航者の学習を事前学習と現地学習のフェーズに分ける
→現地学習は個人的特質、会社からの要求、組織文化と組織社会化、仕事がない日(休日)の要因、国側の問題、ホストファミリーへの適応といった要素を基礎としている。
→そのなかの大きな部分を占める社会化(個人が文化的に適切な規範や振る舞いを学習していく過程)
→よって社会化が海外渡航者の個人的特質に影響を与えているか検討した。同様に文化的適応と社会化の関連を検討した。

個人的特性と社会化に着目する重要性は2つある
1.ホスト国を通して海外赴任者は文化的に適切な規範や振る舞いを学ぶ。
2.海外赴任者は他者と関係するために必要最低限な個人的特性を変化させる

個人的特性の影響と文化的適応の関係
文化的適応を予想する個人の特性が重要であることは議論されている
→文化的適応に正の相関を示す3つの個人的特性
1.自己適応
2.知覚的適応
3.他者適応
→重要なのは3

他者適応は2つのタイプの個人的特性もしくは下位概念を包含している
1.ホスト国の人々と対人関係を確立出来る能力→sociability
2.ホスト国の人々と意欲的にコミュニケーションを取る能力→openess

sociabilityは
・社交的であること
・対人関係を要求できること
の2つの要素から定義される。
openessは新たな環境で学習して変わることを受容する力も定義に入る
→ホスト国からの影響を受容する能力
今回は社会的相互行為を前提としているので、モノや場所を受容する能力ではなく、人を受容する能力に限定する。
→この2つの特性と文化的適応の関係を検討する。

ホスト国との接触とパーソナリティ:接触仮説
文化間相互行為と文化的適応の関係性の上の個人的特性の影響要因を解明する理論的視点は接触仮説(繋がり仮説)である(オールポートら)。
→従来はアメリカの人種間関係に対処する仮説であった
→他の文化的集団の人々とたくさん相互行為すると、ポジティブな印象を与えることが出来るという仮説。
→これがホスト国と海外赴任者との相互行為にも使えるのではないか
→ホスト国にポジティブな態度でいること文化的適応のために重要であるとされている

本論では一般的にいかにホスト国と接触すれば文化的に適応できるのかといった両者の関連を検討する
→社会化することと文化的適応は正の相関があることからも、この検討は有意義であろう。
仮説1.ホスト国との接触は文化的適応と正の相関がある

その後も接触仮説の検証は続いた
→マイノリティとマジョリティの社会的相互行為にどのような変数が影響を与えているかの研究
→接触仮説の影響変数としての個人的特性
→すべての人が平等にホスト国との接触で利益を得られるわけではない
→つまり開放性のない人はホスト国と相互行為をしても、開放性のある人に比べて文化的適応が出来るわけではない
→この実証研究に関わらず、個人的特性と接触仮説の関連性は検討されてこなかった。またどの個人的特性が接触仮説に影響を与えるかも特定されてこなかった。
→だから本論で検討する

接触仮説と開放性
文化的適応と開放性は関連している事が実証されている。
なぜ接触仮説は正しいのか?
→オープンな人はホスト国との関係性を発達させる能力を悪化させるようなネガティブな態度を全く持たない
開放性は文化的適応を促進させる。なぜなら開放性が高い人々は偏見を持たないからだ。
偏見が多い人は異文化に適合するような努力をしないし、ホスト国の人々と接触しない。
自らのパーソナリティに制限されていない人はホスト国の人々との対人関係を構築出来る。
ホスト国の人々は開放性を有する人に対してホスト国の情報の情報源やフィードバック源となる。
→その結果、文化的適応と開放性は生の相関を示す。
仮説2.開放性を有する人はホスト国の人々との接触と文化的適応との間の関係性と関連している。

接触仮説と社会性
海外で生活していることにたくさんの疑念を持った時、海外赴任者は社会的適応すべきで、ホスト国について学習するために他者とコミュニケーションを取ることを要求すべきだ。
海外赴任者の社会的相互行為に正の相関を持つ個人的特性はホスト国との相互行為や馴染み、友情を促進させる。
接触仮説によれば、社会性があることはホスト国の知り合いや友達をつくる可能性をあげる
移民研究を基礎とした研究によると、親密な関係性をホスト国の文化において確立した人々はストレス無くサポートを受けられるネットワークにアクセスするだろう。
仮説3.社会性はホスト国との接触と文化的的適応の関係に影響する。

統制群
過去の海外赴任者の適応に関する研究では個人的特性に加えて6つの影響要因が見つかっている。
本研究のゴールは文化的適応への個人的特性の影響要因を理解することであり、6つのパーソナリティ以外の要因を統制群として用いる。
この6つの要因を超えた影響が個人的特性に見られた時、個人的特性は文化的適応の影響要因として位置づけられる。
6つの要因
1.言語能力:関係構築には言語は不可欠
2.過去の海外経験:海外経験は自信に繋がり、海外業務の成功につながる
3.海外適応までの長さ:新たな文化を快適に感じるまでの時間
4.ホスト国と自国の文化的差異:文化的な差異が大きい程、適応までの学習時間が長くなる。
5.出発前の訓練:新たな文化の振る舞いを学習する助けになり、同時に成功を助ける
6.家族の適応:業務を完了したり、業務を成功させて利することの助けになる。
→これら6つの要因と同時に個人的特性を検討することによって、個人的特性が支配的要因であるかどうか実証する。

方法
対象:すべてのアメリカ人海外赴任者とアメリカ国内の外国人労働者(N=280)。
返答率は51%。25の国々。17人が外国人労働者。平均年齢は40歳。83%は男。75%は結婚している。81%アメリカ人。91%の人が配偶者を海外へ連れて行った。83%の人が子どもを有している(平均2人)(40人の人が子どもを海外へ連れて行った)。70%の人が学位以上の学歴を有している。現在までの平均して1.8年の海外勤務を行なっており、平均して3.2年の勤務を予想している。

尺度
独立変数
・ホスト国との接触度
百分率で計測した。「自国から他の海外渡航者」「他国から来た海外渡航者」「ホスト国の人々」との接触を100%で示させた。

・開放性
caligiuri(1994)の開放性尺度を適応させて尺度を作成した。5件法。α=.72。よって妥当性あり。

・社会性
HPIを社会性の下位尺度として用いた。
留意点は項目レベルで妥当性が保証されなかったことである。
よって合成得点で結果を返送してもらった。
合成得点の信頼性は.08であった。

統制変数
自己申告言語能力
言語能力は「ホスト国の言語を話す能力を教えて下さい」という質問の元、5件法で回答してもらった。

海外経験
海外経験は海外赴任者がどのくらい海外で過ごしたことがあるかを答えさせた。海外で過ごしたすべての時間マイナス海外就業年数は海外就業時間を分割した海外経験の指標を創りだすことを可能にする。

出発前の訓練
2項目を用いて測定した。5件法。海外業務に関する準備と、会社がこの海外業のために準備した出発前準備の妥当性。
α=.64

家族適応
6項目で尋ねた。5件法。
いかに1.ホスト国の言語をはなせるようになったか、2.ホスト国の人々と相互行為しているか、3.適応して生きているか、を一般的に尋ねた。
α=.83

海外業務の長さ
現在までにどのくらい海外業務を経験しているか尋ねた。(単位は月)

ホスト国と自国の文化的差異
hofestede(1980)の40カ国のデータを4つの因子に分類した。この4つの因子が国によって変動することが確認されている。
よってこの因子の差異の絶対値を文化的差異の指標とする。

従属変数
文化的適応
海外赴任者のホスト国における生活や仕事への適応の程度をblackの一般的適応の4項目から検討した。5件法。
α=.86

デザインと手続き
調査用紙は国別の管理者を経由して送付された。調査用紙は、返信用封筒がついており、直接筆者に返ってくるようになっている。質問紙の構成としては個人的特性は前方に、適応は最後に置かれた。こうすることにより妥当性が保証される。適当な解答を見抜けるように、妥当性を見るための項目が用意されている。適当な解答をしたモノはいなかった。

結果
記述統計の結果、アルファ係数は容認できるレベルであった。
統制変数は、「ホスト国と自国の文化的差異」を除いて有意に文化的適応と相関していた。
この結果から後の分析から「ホスト国と自国の文化的差異」を抜いた(もともと調べた国も少なかったし)。
仮説1を検証してみた。
→相関分析の結果、ホスト国との接触と文化的適応の間に相関は無いことが明らかとなった
→よって仮説1は棄却された

仮説2、3を検証してみた
→階層的重回帰分析を行った。予期的要因を2つのブロックに分けた。
1.統制(独立)変数要因ブロック
2.独立変数要因
→検定の結果、
仮説2.開放性が高い人+ホスト国との接触が多い人は文化的適応がなされている、は支持された
仮説3.社会性が高い人+ホスト国との接触が多いは文化的的適応がなされている、は支持されなかった
この結果を総合すると、海外赴任者が開放性を有している場合を除いて、ホスト国との接触は文化的適応に効果が無いことが示された。

考察
本研究は海外赴任者がいかにホスト国の人々と接触すれば文化的に適応出来るかを検討した。接触仮説と社会的学習理論がベースとなった本研究は、ホスト国との接触が増えれば文化的に適応出来ると仮説を立てた。
→回帰分析の結果、上記の仮説は一部支持された。接触と適応は、開放性に統制された場合直線的な関係を示した。また社会性も適応と正の相関を示した。
→この結果は、全ての人が接触におけるポジティブな効果を教授するわけではないという結果を支持している。
開放性を有する人はホスト国との関係性をつくる能力を損なうかも知れないような特性を持たない
社会的学習理論からは、開放性を有する人は、ホスト国の人々から新たな文化を学ぶことに関心を持つと考えられる。
→ホスト国の人々と人間関係が出来ることは文化的に適切な技能や振る舞いを学習することを促進するといった先行研究を支持する
→この頻繁な接触による文化的学習過程は文化的適応を促進するだろう

社会性に関して
接触仮説からは、社会性が高いとホスト国の人だけなく、同じ海外赴任者や同僚、ご近所さんとの相互行為の機会も増えるといえる。
→ホスト国の人と相互行為の機会が増えれば、日常生活的側面を学習する機会が増える。またサポートしてもらえる友達のネットワークを発達させることが出来る
→社会性と文化的適応の間に正の相関が見られたことから、社会性は友人作りの道具になっているのかもしれない。新たな国で友人がいるという自己認知は他国にて適応することの自己評価と関連しているのかもしれない。

接触と適応の負の相関は、単なる接触が適応の生成に必要無く、続く適応能力や適応感性にも必要が無い事が示唆された。
→全ての接触が同等の価値を持つわけではない。
→一つの示唆は開放性を有するときのみ、接触はホスト国の人々にポジティブな印象を与えるということだ。
→逆に開放性のない人々は接触によって適応を減らす。
→もう一つの示唆は、海外赴任者はホスト国の人々のサポートよりも他の海外赴任者からの社会的サポートを受け入れ、好むということだ。
→他の海外赴任者からの援助がない場合、ホスト国の人々に援助の方向転換をするのかもしれない
→この示唆は同国人の友人が、適応にポジティブな影響を与えるかもしれないということだ。
→今後、同国人の友人の社会的サポートやホスト国の人々の社会的サポートの影響を検討することが必要だろう。

課題
・接触の文脈を検討していない。
→様々な接触がある(店での接触、同僚との接触など)。
・適応のプロセスを検討していない
→プロセスを記述することによってより深く理解できるだろう
・統計的問題
→自己申告制の問題点など
・サンプルの問題
→個人主義のアメリカ人ばかり。集団主義の国もサンプルに入れた再検討の必要性

実践的示唆
・海外赴任者を選ぶ際に個人的特性(開放性と社会性)を考慮すること(※特にたくさん現地の人と相互行為をする場合において)
すべての人に海外勤務は向いていないと伝えるべきだ.
→選ぶのを慎重に行うべきだ
・海外赴任者が決まったら、業務を行う前にホスト国との相互行為を積極的に行うべきだ